〈バイオリンの演奏テクニック〉
重音(和音)の弾き方 弓の使い方と弦の押さえ方
重音・和音
- バイオリンでは、和音のことを「重音」と呼びます。重音を構成する2つの音の音程の差によって、2度の重音、3度の重音、・・・があります。バイオリンの隣り合う弦(たとえば、A線とD線)の開放弦の和音は「完全5度の和音」になります。
- 和音を構成する2つの音の「周波数」の比が、簡単な整数(完全5度では2:3、完全4度では3:4)であらわせる時、人の耳は心地の良い和音と感じる特性を持っています。この心地の良い和音を「協和音」と言います。一方、2つの音の周波数の比が複雑になっていく(例えば、2度(ドとレ)では8:9等)と、心地の悪い濁った響きと人の耳は感じます。この心地の悪い和音を、「不協和音」と言います。8:9という数字が簡単か複雑かという線引きはしにくいですが、2つの音の周波数比を表わす数字が大きくなっていくと、それにつれて濁った和音と感じ易くなるということです。
重音練習をする時の「弓」について(重音の右手)
- 練習の前に調弦をしっかりやるようにします。重音を練習する時は、弱く、小さい音で、音をよく聴くように注意します。
- 重音を弾く時は、2本の弦を同時に弾ける弓の角度を把握して、その角度を確実に維持しながら弓を運ぶように注意します。弓と弦が接しているポイントにだけ意識を集中させがちですが、右肘の位置、高さに注意を向けると良いです。特に、右肘が落ちた状態で、手首や指で弓と弦の接触角度を調節していると、弓を運んでいくうちに角度がずれてしまい不安定になります。
- 重音を弾いていて音を潰してしまうのは、必要以上の圧力を弦に載せてしまっていることを意味します。音を潰さないで重音を弾くには、2本の弦を同じ圧で弾ける弓の角度を維持することを意識します。この角度の維持を意識しないで2つの弦を同時に弾こうとすると、どちらか片方の弦に圧を加え過ぎてしまって音を潰してしまうことになります。
しっかりした音程で重音を弾くには
- 重音を奇麗に(ハモらせて)弾くには音程を正確に取る必要があります。2つの音程があっている時の音を聴いて覚えて、あっている音、外している音を聴き分けられるように訓練します。音程は耳でつかむようにします。
- 2つの音程があっている時の音(「澄んだ音」)の響きを覚えて、音程が外れた時の音(「濁った音」)や「うなり」を認識できるように訓練します。最初は、どんな響きが正解なのか、外れなのか分からない場合も多いと思いますが、これは耳で聞いて覚えていくしかありません。耳を訓練できるようにサンプル音源を用意していますので練習に使ってみて下さい。
- 重音を外した時にでる「うなり」ですが、聞いても良く分からない人もかなりいるようです。わかり易い例を動画解説に入れていますのでご覧ください。
重音の弦の押さえ方について(重音の左手)
- 3度、6度、8度の重音で音階を上がる練習が教本によくでてきます。6度の重音は、普段の指使いと同じような指の形で弦を押さえるので、ストレスが無く比較的楽に重音が押さえられるはずです。6度から練習するのも手です。
- 一方、3度の重音は、指の腹が隣の弦に触らないように浮かせる「トンネル」をつくる必要があります。この「トンネル」は普段とは少し違った弦の押さえ方をする必要がでてくるので、指や手にストレスがかかり難しいと感じる人も多くいます。
- 「トンネル」の作り方と「弦の押さえ方」のポイントは、左肘を入れて左手の甲を少し持ち上げることで、弦を押さえる指を指板に立たせぎみにすることです。弦を押さえる普段の指の形だと、指の腹で隣の弦に触れてしまって、かすれた音が出てしまう場合もあります。指を少し立たせた状態をつくることで、隣の弦に触れないようにします。指で弦を押さえる基本の形が崩れるので、肘とか手の指の曲がりが部分的にきつくなって、ややストレスがかかる形になります。
重音の押さえ方に苦労する場合の見直しポイント
- 左手の形だけを色々変えてみるのではなく、楽器の構え方を見直すと良い場合があります。
- 楽器を体の正面側に向けすぎていないか確認してみましょう。好ましい位置で構えている楽器を、楽器と腕の位置関係を保ったまま正面に向けていくと、左肘がつらく感じるはずです。左肘を引き入れる事が難しいと感じている場合は、楽器を少し左側に構えてみましょう。
- 楽器の傾き(指板を回転の軸とした楽器の傾き)も影響があります。楽器を構えて胸を張ると、楽器の表板の面が床面に対して平行に近くなるのがわかるはずです。楽器は傾いていたほうが、指を指板に立たせ易く、左肘を必要以上に引き入れなくても済みます。楽器に対する左肘の引き入れ具合や左手首、左指の形をそのまま保って楽器だけを傾けてみると、楽器が床面に対して平らに近い時は指の腹が隣の弦に触れてしまいますが、楽器を傾けていくと自然に指が指板に対して立ってきて隣の弦に指の腹がつかなくなります。楽器を床面に対して平らになり過ぎていないか確認してみましょう。このあたりの説明は動作が分かり難いと思いますので動画で確認してみてください。
動画解説
補足解説
楽器を傾けて構えた方が指を指板に立たせ易いので、トンネルをつくって重音を押さえる時に左手が楽になることを説明しました。一応、写真も載せておきます。ここでいう楽器の傾きは、上の図中の赤い矢印の向きの楽器の回転です。また、赤い矢印の方向に楽器を傾けると、下の図に示したように、楽器の面(赤い四角形)に対する指の当たり方(水色の線)が立ってきます。もちろん、面に対して指が垂直になるまで立たせる必要はありません。普段よりも立たせぎみにするだけで十分です。
楽器を傾けたいからと言って、重音を弾く時だけ左肩を持ち上げてはいけません。楽器を載せる位置を少しずらしたり、肩当てやあご当てを調整するだけでずいぶん構えが変わってきます。
重音を押さえる場合も小指がしばしば問題になります。人によって、指の長さや、手の大きさ、指がどう伸びているか等が違うので、自分の手と相談しながら隣の弦にふれないように角度を見つける事が重要です。例えば、小指を弦の少し横の方向から入れるようにすることで、小指が短めの場合でも指の関節が緊張しないように少し丸みを持たせて押さえます。その分、手首がくの字にちょっと出っ張って、手の甲が緊張しやすくなります。(動きは動画レッスンで確認して下さい。)あるいは、小指を自然に曲げた状態で弦をおさえてから、指先の関節を立たせてトンネルをつくると、1番目の関節を曲げた分、2番目の関節が伸びぎみになります。小指の筋肉が緊張しやすくなり運動の柔軟性を失う原因になるので注意が必要です。腕から手首にかけて自然にまっすぐな状態を保つ、または、指の関節は自然に少し丸みを持たせる、などの原則的な話は、手や指を緊張させないようにするためには大事ですが、重音を押さえる時はある程度普通と違う手の形をとっても仕方がないので、押さえられるポイントを探してみましょう。大人の場合、子供と違って関節の柔らかさは落ちてきます。自分の手に合わない無理な形で重音練習しつづけると手を傷めるので、あまり長時間練習しないように注意しましょう。
曲の流れや表現上の理由で、普段と違ったストレスのかかる重音の押さえ方で弾く場面があってもよいです。例えば、弦を押さえ直すと音質が変わってしまうので、押さえ直さずにストレスはかかりますが手を捻って弦を押さえっぱなしにする場合などです。優先する事に合わせて押さえ方を変えていく場合もよくあります。