〈右手と弓の使い方・バイオリンの演奏テクニック〉
詳しいボーイングの解説 実践編 その1
バイオリンの演奏技術のなかで、ボーイングは一番難しく永遠の課題であると言われます。バイオリンを弾きはじめてしばらく経つと、思ったように弓を運べなかったり、貧弱な音しか出せなかったりと、ボーイングの難しさを身にしみて実感するようになると思います。何かが違う事は分かっているけど、何が悪いのか、どう直したらよいのか分からない方が多くいることと思います。ここでは、ボーイング解説の実践編として、少し詳しくボーイング動作のチェックポイントをいくつか解説します。
解説のはじめに注意して頂きたい点があります。ボーイング動作には非常に多くのバリエーションがあり、体格や個性によって細かな動作はかなり異なってきます。一言で言うと、具体的な動作は、流儀、個人差が大きいものです。ですので、(以下では、できるだけ一般的な、あるいは、あり得るパターンを複数解説していますが)解説内容とご自身の弾き方が違っていても、すぐに変える必要はありません。ボーイング動作の改良が必要と感じた場合に、チェックポイントして参考にしてください。
弓元から弓先まで弦に直角にボーイングする理由は、全弓に渡って均質な音をつくるためです。
- ボーイングをまっすぐにする目的は、「均質な音」をつくるためにもっとも都合がよい弾き方だからです。均質な音とは、弓元から弓先まで、音の大きさや音質が変わらず一定である、ということです。音に表現や変化をつけるのは、均質な音をつくるという基礎ができていないといけません。
- バイオリン初心者にありがちな悪いパターンは、弓先で肘を体の後ろ側に引いたような肘鉄の形や、弓元で弓の先端を背中側に回してしまうパターンです。この弾き方をしてしまうと、弦と弓の毛が接触する角度や、弓の進む方向が弓元、弓中、弓先で変わってしまうので、均質な音をつくるのが困難になります。また、素早く弓を流すように運ぶ奏法ができなくなってしまいます。
- まっすぐにボーイングするためには、主に「右手首のひねり」で弓の角度を弦に直角に調整します。右手首の角度を、弓元、弓中、弓先で変えて、常に弓が弦と直角になるように維持します(動画で確認して下さい)。右手の指の屈伸も重要な要素ですが、主に、右手首の運動になります。
- 均質なボーイングをするためには、サウンディング・ポイント(指板と駒の間の弦と弓が接触する所)を一定にすることも重要です。サウンディングポイントを変えることで音色、音の大きさを変えることができるので、意図しないでサウンディングポイントがフラフラしてはだめです。
- 弓先は弓に圧を乗せにくいので音が抜けたり、かすれやすくなります。特に、悪いボーイングのパターンで示したような、弓先で右肘が引けて肘鉄になってしまうと、弓と弦の接触する角度が変わってしまい、弓圧のコントロールに失敗して音が抜けやすくなります。弓先で音がかすれる傾向がある方はこの点に注意してください。
- 弓元では圧を乗せすぎる傾向があるので、弓圧をかけ過ぎないようにコントロールしないと音がつぶれてしてしまいます。
ボーイングをする時の右手の指の使い方
- 親指は反らせないで丸くして弓身(スティック)に当てるようにします。これは、親指の第一(指先に一番近い関節を指しています)、第二、第三(手首との付け根の関節を指しています)の関節を柔軟にして、指の運動ができる事が目的です。ですので、外見だけ丸くして関節をガチガチに緊張させていては意味がありません。親指の関節の柔軟性は、弓の返しや、スピッカートなどあらゆる弓のテクニックで必要になってきます。
- 人差し指は、弓に圧力を加える重要な働きをします。弓先に向かう時、人差し指で弓に圧を効率よく乗せるには、腕と手を内側にひねっていく運動をイメージするとよいです(実際の動作は動画で確認してください。)
- 人差し指は弓を持ち上げる働きはしません。弓先を持ち上げたり、弓圧を抜いたりする必要がある時は、弓自体が跳ねる力を使ったり、小指でスティックを押し下げて弓先を上げます(動作は動画で確認して下さい。)。人差し指をスティックに巻きつけて、弓を持ち上げないでください。
- 指の間隔を少し開けて弓を持ちます。指が互いにくっついていると、互いの指が邪魔になり、指の運動が難しくなってしまいます。
動画解説
補足解説
ボーイング動作の右手指の動きは、「指の運動・指弓・弓の返し」も参考に。
ここでは、弓の持ち方の復習を兼ねて、指と弓の位置関係を解説しました。実際のボーイング動作には、指の柔軟な運動が不可欠です。
解説「 指の運動・指弓・弓の返し 」も参考にして下さい。