〈右手と弓の使い方・バイオリンの演奏テクニック〉
指の運動・指弓(ゆびゆみ)・弓の返し
指の柔らかい運動・指弓
- 右手の指の運動が柔軟にできることは様々な弓のテクニックの重要な要素です。指の柔らかい運動を訓練する際に、弓を立てて指だけで弓を動かす指弓(ゆびゆみ)と呼ばれる練習をします。
- 指弓の練習をする時は、フラフラする弓先を安定させるために人差し指で弓身(スティック)を握らないように注意します。人差し指は弦に圧を乗せるために弓を押さえる働きが主です。弓を持ち上げたり弓圧を減らすためには、弓をバウンドさせて跳ねかえる力を利用したり、小指を使います。素早く、繊細に弓圧を加えたり抜いたりするために、弓をある程度自由にして弓が自然に跳ねる力を使いますので、人差し指でスティックを握って運動を抑制してしまうと弓の繊細なコントロールに問題が出てきてしまいます。
弓の返し
- 上げ弓(アップ)から下げ弓(ダウン)に弓を返すときは、指弓の要領で弓を少し持ち上げるような動作をします。指弓で持ち上げると言っても、弓を弦から完全に離す(弓はOFF)ほど持ち上げることはなく、弓は弦に乗せたままの状態で弓圧を抜く程度の動き(弓はON)です。人差し指で弓に加えている圧を一瞬抜く必要があるのですが、人差し指でスティックを握っていると人差し指が邪魔して素早く圧を抜いたり加えたりできなくなってしまいます。
- 弓を返す一瞬、弓圧を開放しますが、下げ弓(ダウン)が始まる直前はしっかり発音させるために人差し指で弓に圧を乗せ直すことを忘れないようにします。
- アップからダウンに弓を返す時の右手の指の動きは、親指、中指、薬指、小指は丸くするように意識しますが、人差し指は他の4本の指とは反対に開く、伸ばすように意識して、弓への圧が開放しやすいように動作します。人差し指を跳ねあげるような動作はしなくてもいいと思いますが、少なくとも他の指と同じ様に丸くするような動作はしないように注意してください。人差し指も丸める、握るように動かすと弓圧の開放が難しくなります。(実際の動作は動画で確認して下さい。)
- 右腕、右手首、指の動きを合わせて弓の返し動作を解説すると、指の運動で弓をUPの方向に圧を抜きながら動かすとほぼ同時に手首はDownへ動き始めます。あまりおおげさにこの動きをすると、かえって変なアクセントが付いてしまったりするので適度な加減を掴むようにしてください。
色々な演奏表現に必要な指の柔軟な運動
- 柔らかく丸い音を出す時には、柔らかい指のタッチで弓を運ぶ必要があります。指の動きで弓を進行方向に進ませながら、ふわっと弓を浮かせて手首を逆方向に動かすようにして丸い音をつくります。
- 音を潰さないように弓を弦に着地させる時には、指をクッションのように柔らかくつかって着地します。また、弓を少し傾けて着地させるのも音を潰さないようにするためには効果があります。
- 楽器を響かせるために弓の毛を弦に吸いつかせて弾く時も指の柔軟な運動が必要になります。
動画解説
補足解説
指の運動を訓練するために、まずはゆっくりとした指だけでボーイングする練習をします。動きに慣れてきたら、動画でも解説していますが、アクセントをつけた弾き方も練習してみて下さい。マルトレ奏法ではっきりとしたアクセントで発音させる時には、手首の動きだけでなく指の動きも加えるとよいです。
この速い指だけのボーイングをコーレ(Colle「コレー」)と呼ぶ場合もあります。
ボーイングで弓が震える症状は、特に発表会などで緊張してしまった時などによく見られます。
弓が震える原因は幾つかあるのですが、そのひとつに指の硬さがあります。指が弓の跳ねや振動を吸収できずに弓が細かく跳ねてしまうのです。弓の跳ねを抑える働きは、右手の人差指の役割が大きいですが、小指や薬指などもクッションの役割を持っています。
試しに、右手の人差し指と小指を弓から完全に離して、親指と中指だけで弓をつまんでボーイングしてみましょう。跳ねを抑える働きをする指が機能しないので、弓中付近で弓が暴れだすと思います。
反対に、少し不思議に感じるかもしれないですが、指で一生懸命硬く握っていても、弓の跳ねを抑えきることは難しいです。テコの原理でしょうか、弓の跳ねる力を支点(ここでは親指と中指・薬指で弓をつまんでいる場所を支点と見ています。)の非常に近く(人差し指の長さ程しかないので数cmでしょう)で力で抑え込むのは困難で、弓の跳ねる力に負けてしまいます。
左の写真は、指が全般的に突っ張ってしまっている場合の写真で、動画解説からとってきたものですが、このような持ち方をしてしまうと、指の柔らかさを出すのは難しいでしょう。
左の写真のように、人差し指で弓を握ってしまっていても弓の震えを抑える事が難しくなります。理由は同じで、支点の近くで弓の跳ねる力を力で押えこむのは困難だからです。
弓を返す時の動作ですが、力の入れ方や運動方向のイメージを左の写真で補足しておきます。弓元の例です。
人差し指は赤い矢印の方向へ持っていくイメージで「弓に加えていた圧を抜く」動作をします。それ以外の指は水色の矢印の方向へ指を丸め、指弓で弓をアップへ進めるように動作させます。ほんの少し遅れて手首を緑の矢印の方向へ動かしはじめます。
左の写真や、動画解説の中では、運動のイメージを意識づけるために、動きは大げさです。手や指の筋肉の動かし方や力の加え方のイメージを掴むようにして、実際に動作する時はもっと自然体にするようにして下さい。